お客さんに失礼な態度を何度もとる。そのたびにクレームが来る。勤務時間中にもかかわらずちょっと目を離すとさぼっている。仮にそのような従業員さんがいたとします。(そんな人めったにはいない?)
中には、「今すぐ解雇だ、会社にはおいておけない、」という判断をしてしまう社長さんもいることでしょう。でも、ちょっとだけ冷静になってください。
労働基準法では、「あなたは今日で解雇。あしたから会社に籍は無い。」という場合は、解雇予告手当30日分を、解雇の予告と同時に支払う必要があります。
おおむね給料の一か月分ぐらいの金額になるでしょう。
一方で、「あなたを30日後に解雇する。それまでは出勤するように。」ならば解雇予告手当は支払う必要がなくなります。今すぐ解雇する必要が本当にあるのか、業務の引継ぎの時間は必要ないのか、少しだけ考えてみたらいかがでしょう。(もっとも、未消化年休があれば、解雇予告手当に近い金額を支払うことになりますが・・・)
とにかく、どちらかの手続きをとれば、労働基準法違反の問題はクリアされ、労基署の指導をうける可能性はほぼなくなります。(どちらを選ぶにしても、きちんと書面で通知するのがよいでしょう。)
けれども・・・まだ安心はできません。労働基準法とは別に、民事で不当解雇として訴訟に持ち込まれるリスクが実は残っているのです。そして、このリスクはなかなかバカにはできません。裁判で不当解雇という判決が出た場合に会社が支払いを命じられる金額は、給料1か月分程度では通常済みません。
不当解雇と判断されないためには、具体的には解雇を避けるための努力をどの程度会社がしたか、が大きな争点となってきます。(難しく言うと労働契約法第○条の「客観的合理的理由を欠き社会通念上相当とは言えない解雇は無効」というケースに当てはまるかどうかが問われます。)
期間の定めのない雇用契約の従業員さんを能力不足や勤務態度不良で解雇する場合は、
①就業規則に解雇の事由がきちんと定められていて、それに当てはまっているか。
②繰り返し指導を重ねても改善がみられなかったということが立証できるか。(このハードルは一般的にはかなり高い)
③配置転換やパートさんになってもらうなど雇用維持の努力をしたか。
④その他いろいろ。話し合いを尽くしたか。などなど。
これらをきちんとクリアしたかが判断のポイントとなってきます。なかなかすべて履行するのはむずかしいかもしれません。
おそらく、現実には訴訟になる前に話し合いで解決という場合の方が多いのでしょう。裁判なんて簡単におこせるものではありません。しかしながら、だからと言って安易に従業員さんを解雇してしまうと、思いがけぬしっぺ返しがありうるというお話です。
大切なのは、簡単に見切りをつけず、きちんと指導し、繰り返し仕事を教え戦力に育てる努力を忘れないことなのかな、とも思わないでもありません。(そんな根気と愛情をもった会社なんてそうそうあるわけない、指導して改善するような従業員なら解雇はしない、と言われればそれまでですが。)
問題のありそうな人は採用する前に見抜いて入社させないことが肝心だ、ということにもなりますね。
オーソドックスな対応は、健康保険から傷病手当金を受給してもらいつつ休職・治療をする。就業規則の休職期間を経過して復職の見込みがあれば、軽易業務から徐々に本来の職務に復帰してもらう。可能なら、休職および復職の判断にあたり診断書の提出を求めるのが良いでしょう。
なお、休職期間満了で復帰のめどが立たなければ、解雇なり退職勧奨なりを検討することがあろうかと思います。その場合、就業規則に「休職期間満了で復帰の見込みない場合は自然退職とする」のような記載を入れて置けば、自然退職という形をとることができます。
休職期間はできるだけ長く取ってあげるのが望ましいでしょう。事業場の社会保険料負担とのかねあいもありますが・・・。
傷病手当金は最長1年6ヶ月間、要件にあてはまれば退職後でも受給可能です。ただちに退職してもらうのではなく、傷病手当金を受給しながら治療に専念させ、「回復したら職場復帰」という選択もあるというお話でした。訴訟リスクから会社を守る安全策ともいえるでしょう。
まずは社内調査すべきでしょう。加害者だといわれている先輩社員、被害を受けてたと申し立てている後輩社員、両者別々に話を聞くこと。必要があれば他の従業員の話も聞くこと。被害者加害者双方のプライバシーに配慮することを忘れずに。
そのうえで、パワハラの事実があったのであれば再発防止措置をとり、加害者への指導や処分も必要ではないでしょうか。
事実がないのであれば、会社の判断を被害を申し立てた後輩社員につたえ、さらにこの機をとらえてパワハラ防止措置の徹底を図るというのもよいでしょう。
後輩社員が会社の対応に納得しなければ、民事上の紛争に発展する可能性が残ってしまいます。そうならないためにもきちんと説明し、理解を求め、今後の防止措置の徹底を図ることは必要でしょう。
パワハラの実態は人権侵害です。人権侵害をする上司なり同僚なりを雇用した会社の使用者責任が問われます。当事者間の問題と考えて放置してはいけません。
なお、パワハラを放置したら人権侵害を見過ごしたという責任(職場環境保持義務違反)が民事上で問われることになります。ですから、パワハラの申し立てがあるにもかかわらず何の対応もしないというのは、会社としての責任を怠ったといわれても致し方ありません。
訴訟になってしまった場合は、事実関係の確認が大きな争点となるでしょう。だからと言って、パワハラの事実があるにもかかわらず会社ぐるみで隠ぺいを図るのは絶対に避けてほしいと思います。